
新卒の就職活動で、最初の難関ともいえるのが業界・職種です。数ある職種のなかでも介護職を目指そうと考えている人もいるでしょう。
しかしその一方で「介護職はやめておいたほうがいい」「ほかの業界のほうがおすすめ」といった声が少なくありません。これから介護職員として働こうと思っている人にとって、このような声を聞くと不安になってしまいますよね。
新卒で介護職がなぜおすすめされないのか
新卒者のなかには、就職先として介護職を選択している人もいるでしょう。しかしその一方で、介護職はおすすめしないとの声が上がっています。
なぜ新卒に介護職がおすすめされないのでしょうか。その理由について紹介します。
給料が低いから
新卒で介護職がおすすめされない理由のひとつが、給料が低い点です。
厚生労働省が公開している「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、介護職員の所定内給与額は25万5,400円でした。この金額の12カ月分に年間賞与約50万円をプラスすると、平均年収は356万4,800円です。
また介護職はほかの業界・職種と比較すると、昇給のチャンスがあまり多くありません。何年も給与所得者の平均年収以下という状態が続く可能性があります。
新卒者のなかには就職後、一人暮らしなどを考えている人もいるでしょう。しかし介護職の給料ではそれが難しく、途中で転職を考える人もいるのが現状です。


このような背景から、新卒者に介護職はおすすめしないとの声が上がっています。
学歴を十分に活かせないから
学歴を十分発揮できない点も、介護職をおすすめしない理由のひとつです。
例えば企業のなかには、学歴に応じて給料が変化するケースは少なくありません。高卒よりも大卒のほうが初任給・基本給が高いという企業は多くあります。給料に反映されているという点から見ても、学歴が活かされているといえるでしょう。
しかし介護職の場合、学歴に応じて給料に差を設けているところはあまり多くありません。勤務先によっては、学歴がない職員との給料の差がほとんどないケースも見られます。この状態は学歴が十分活かされているとはいえないでしょう。
基本的に介護職は学歴に関係なく働ける業界であるため、新卒者が介護職につくことはもったいないとの声があります。ほかの業界・職種を経験してから従事しても遅くないと考える人が多いため、介護職をおすすめしないのでしょう。
福利厚生が良くないと言われているから
福利厚生面が不十分とされている点も、新卒者に介護職をおすすめしない理由です。
介護業界の一般的な福利厚生は、以下の通りです。
・通勤手当
・退職金制度
・産休・育児休暇制度
・特別休暇制度
・社宅、家賃補助
これらは一般企業でも導入されている福利厚生であり、一見すると変わりがありません。しかし一般企業の多くでは、上記以外に以下のようなものも福利厚生の一環として行われています。
・財産形成
・余暇・レクリエーション
・自己啓発高齢者支援
・育児・介護の両立支援
例えば同級生が上記のような福利厚生がある一般企業に就職すれば、うらやましいと思う人もいるでしょう。自分の処遇と比較して、その差にショックを受ける人もいるかもしれません。
介護業界は、より若い人たちの人材を確保するためにさまざまな取り組みを行っています。福利厚生を充実させるといった取り組みもそのひとつですが、すべての現場での整備が完了するまでには時間がかかるでしょう。
新卒の介護職の仕事内容
新卒の介護職の仕事内容について確認していきましょう。


身体介護
身体介護とは、介護職に従事する人が利用者に直接触れて行う介護のことです。
利用者が日常生活を送るなかで、自分では困難な作業などのサポートをします。具体的な内容として、以下のようなものがあげられるでしょう。
身体介護 | 内容 |
食事介助 | ・食事の準備から下膳まで ・食事のサポート ・誤嚥防止 など |
排泄介助 | ・トイレへの誘導や移乗介助 ・衣類の着脱 ・排泄後の清拭 ・おむつやパット交換 など |
入浴介助 | ・入浴準備 ・浴室誘導および浴槽介助 ・着替えの介助 など |
上記以外にも、服薬介助・移動介助といったものがあります。
生活援助
生活援助とは、利用者の日常生活維持を目的として行われる家事援助のことです。利用者に直接触れるのではなく、家事全般のサポートを行います。
主な業務内容は、以下の通りです。
生活援助 | 内容 |
掃除 | ・居室、トイレ、風呂などの掃除 ・ゴミ出し ・整理整頓 など |
洗濯 | ・衣類やタオルなどの洗濯 ・洗濯したものをたたんで収納 など |
買い物 | ・日用品や食料品の買い物代行 ・薬の受け取り代行 など |
調理 | ・利用者の食事の準備 ・食器や調理器具の片づけ など |
新卒で介護職に就くメリット
新卒で介護職に就くメリットを紹介します。


勤続年数に応じて昇進のチャンスがある
昇進のチャンスがある点は、新卒で介護職に就くメリットのひとつです。
介護業界は、慢性的な人材不足に陥っています。新しい職員・従業員を採用しても、早期退職してしまうケースも少なくありません。
常に人手不足に悩まされている介護職で経験および勤続年数を積み重ねれば、早々に昇進のチャンスが訪れます。従業員数が少ない介護職なら、若いうちから管理職を任されることもあるでしょう。
例えば役職が上がれば、基本給のアップや役職手当の支給が期待できます。全体的な給与がアップするため、収入の安定・向上が可能です。
国家資格の取得がしやすくなる
国家資格が取得しやすくなる点も、新卒で介護職に就くメリットとしてあげられます。介護分野の国家資格を取得するためには、実務経験が必要だからです。
介護の国家資格である介護福祉士は、介護の専門知識とスキルを持って業務遂行が可能なことを証明する資格であり、キャリアアップ・待遇改善にもつながります。
しかし介護福祉士を取得するためには、以下のいずれかのルートで条件を満たさなければなりません。
取得ルート | 概要 |
養成施設ルート | ・介護福祉士養成施設を卒業 ・専門学校、大学、短大など |
実務経験ルート | ・3年以上かつ540日以上、介護等業務に従事 ・厚生労働省指定の施設や事業、または介護福祉実務者研修の修了 |
福祉系高校ルート | ・福祉系高校を卒業 ・介護に関する科目を履修できる学科 |
若い年代から専門性を高められる
新卒で介護職に従事すれば、若いうちから専門性が高められるでしょう。
介護職を通じて介護業界に必要な知識・スキルはもちろん、コミュニケーション能力・心理的知識といった点も高められます。
介護職で得られるこれらのスキル・知識は、ほかの業界でも役立つものが多い点が特徴です。例えば心理的知識は、高齢者支援などでも活かせます。また、コミュニケーションスキルは営業・接客といった別の業界でも重宝されるでしょう。
このように若い年代から介護分野とあわせてほかの面でも専門性を高めておけば、キャリアプランの幅が広がります。介護職を通じて得られるあらゆる面での知識・スキルを吸収し、次のキャリアアップに向けて活用できる点は、メリットといえるでしょう。
体力を活用できる
体力を活用できる点も、新卒で介護職に就くメリットです。
介護職には、身体介護と生活援助の2パターンがあることは解説しました。このうち身体介護は利用者の体に直接触れて行う介護であることから、体力が必要です。
若い間は体力があるので、介護職に従事すればそれを活用しながら利用者に感謝されることが多いでしょう。やりがいを感じながら体力面が活かせる点は、新卒で介護職に就くメリットとしてあげられます。
介護職で新卒が活躍するコツ
介護職で新卒が活躍するコツを紹介するので、参考にしてください。
介護職の業務内容を事前に把握する
介護職の業務内容を事前に把握しておきましょう。
介護職は、人対人の業務です。仮にマニュアルがあったとしても、その通りに行くとは限りません。利用者にはそれぞれ個性があり、考えがあります。マニュアル通りにいかないことは当然です。
突発的なことが起こった場合でも、事前に業務内容を把握して入れば冷静に対応できます。業務内容を掘り下げて理解すれば、応用を利かせた対応もできるでしょう。
介護職では、瞬間的な対応を求められることも少なくありません。基礎的な知識を事前に獲得しておくことで、素早い判断が求められる場面でも何をすればよいのかがわかります。
ご利用者の現状を的確に掴む
利用者の現状を的確に掴むことも、新卒が介護職で活躍するコツのひとつです。
介護職の現場では年配の利用者が多いため、予期せぬトラブルが絶えません。想定外のトラブルが発生して、戸惑うこともあるでしょう。
利用者の現状を的確に掴んでおけば、予期せぬ事態に遭遇してもどのように対応すればよいのかわかります。利用者が何を望んでいるのかがわかるからです。


新卒の介護職の初任給
新卒の介護職の初任給について紹介します。
業界全体の新卒者の平均初任給
業界全体の新卒者の平均初任給は、以下の通りです。
学歴 | 初任給(千円) |
大学 | 212.5 |
短大 | 200.0 |
専修 | 200.0 |
高校 | 183.3 |
(出典:令和5年3月新規学校卒業者の求人初任給調査結果|東京労働局職業安定部)
この平均年収は、あらゆる業界を含めた全体的なデータです。
次の項目で医療・福祉業界に限定した新卒者の平均初任給を紹介します。製造業・サービス業などを含めた場合の学歴別の平均年収は上記のとおりであり、これをベースと考えてください。
医療・福祉業界の新卒者の平均初任給
医療・福祉業界の新卒者の平均初任給は、以下の通りです。
学歴 | 初任給(千円) |
大学 | 202.9 |
短大 | 197.4 |
専修 | 200.0 |
高校 | 189.2 |
(出典:令和5年3月新規学校卒業者の求人初任給調査結果|東京労働局職業安定部)
前述で紹介した全業界における学歴別の平均初任給と比較した場合、大学・短大は下回っています。専修・高校は反対に高くなっていることから、学歴はあまり関係がないといえるでしょう。
新卒で介護職に就く上での注意点
新卒で介護職に就く際の注意点について紹介します。
仕事とプライベートの境界をつける
仕事とプライベートの境界をつけるようにしてください。介護職は、利用者との距離が近くなりやすい職業だからです。
利用者のなかには、介護職に従事している人を家族と思って接する人も多くいます。仕事に限定する場合には、このような関係性を築くことに特に問題はありません。
しかし利用者と介護職員との距離が近くなりすぎると、プライベートの携帯電話を教えるといったケースが多く見られます。
プライベートでも利用者と接する機会を作ってしまうと、仕事以外の時間帯にも対応を迫られるでしょう。
自分自身の体調管理を心がける
体調管理を心がける点も、注意点のひとつとしてあげられます。介護職は、体力勝負の仕事だからです。
介護職には身体介助と生活援助の2パターンがあります。身体介助の場合は利用者に直接触れて介助をするため、体力が必要不可欠です。
一方で生活援助は、基本的に利用者に直接触れることはありません。しかし家事全般を引き受ける業務であることから、こちらも体力が必要です。
どのような業務に従事していたとしても、介護職が体力勝負の仕事である以上体調は万全に整えておかなければなりません。
当たり前のことを徹底する
当たり前のことを徹底することも、注意点といえるでしょう。当たり前のこととは、例えば以下のようなことを指します。
・言葉遣い
・身だしなみ
これらは、社会人として当たり前のことです。しかし介護職に従事すると利用者との距離が近くなりすぎてしまい、挨拶・言葉遣いといった点がおろそかになることが少なくありません。
社会人として当然のマナーを徹底することは、利用者およびその家族との信頼を築くためにも重要なことです。マナーを含む当たり前のことを徹底するように心がけてください。
介護の職場を選ぶポイント
介護の職場を選ぶポイントを紹介します。
職場の理念や価値観に共感を持てるか
職場の理念・価値観に注目しましょう。理念・価値観でミスマッチが起こると、入社後の業務に支障をきたすリスクが高まるからです。
最初に、自分がなぜ介護職に就きたいのかを考えてください。その理由・意図を基準にして、理念・価値観に共感が持てるかチェックしましょう。
職場の理念・価値観は、基本的にホームページなどを見れば把握できます。また、掘り下げて研究するためにも利用者向けのパンフレットなども参考にするとよいでしょう。
職員の快適な職場環境を意識しているか
職場環境のチェックも重要です。
長期的に勤務するためには、快適な職場環境が欠かせません。具体的には、以下のような点に注目するとよいでしょう。
・福利厚生
・勤務形態
・従業員の人数
・従業員同士の風通しの良さ
給料面ももちろん重要ではありますが、上記のようなポイントもモチベーション維持には必要不可欠です。上記は一例ですが、このような点に注目して職場環境をチェックしてみることをおすすめします。
ご利用者が快適に過ごせているか
利用者の快適度も確認しておいたほうがよいでしょう。利用者の快適度は、提供しているサービスの質の良さを測る指針だからです。
利用者の快適度を知るためには、インターネットで口コミなどを探してみてください。また実際に訪問して、利用者の人たちの表情を観察してみることもおすすめです。
まとめ
新卒で介護職がおすすめされない主な理由について解説しました。
世間一般ではあまり批判的な声もありますが、初任給は大卒の他職種と大きな差があるわけではありません。また、福利厚生面についても順次見直しが実施されています。
本記事で紹介したメリット・活躍するコツなどを参考にして、ぜひ介護職に挑戦してみてください。
